パンデミックは一つの時代の終わりを告げ、新たな経済の舞台を整えました。
これからの経営戦略は、ただ過去の成功を繰り返すのではなく、変化した市場の波にいかに乗るかが問われています。
本記事では、アフターコロナ時代を生き抜くための経営戦略立案の手引きとして、経営者がまず最初に取り組むべき「企業戦略(成長戦略)」の重要性とその立案方法に焦点を当て、競争戦略、機能戦略へと続く、一連の戦略立案のプロセスを掘り下げていきます。
新時代の経営の羅針盤「企業戦略」
コロナウイルスの大流行が一段落し、ビジネスの世界では「新常態」というフレーズがしばしば耳に入るようになりました。
この新常態のもと、企業経営者は一貫して、戦略の見直しと再構築の必要性に直面しています。とりわけ、「企業戦略(成長戦略)」への注力は、生き残りを賭けた急務となっているのです。企業戦略は、会社の将来像を明確にし、目指すべき方向性を設定することに他なりません。この戦略においては、経営資源の効果的な配分、そして長期にわたる成長の道筋が中心的な要素となります。
経営資源の配分に関しては、資本や人材、技術といった限られた資源を、最も効率的かつ効果的に活用するための戦略的決定が求められます。例えば、アップル社はその資源を革新的な製品開発に集中させ、市場でのリーダーシップを確立してきました。一方で、テスラ社は持続可能なエネルギーへの移行という社会的動向を捉え、電気自動車という新しい市場で圧倒的なブランド価値を築き上げています。これらの企業は、独自の強みを活かして市場での競争優位を確立し、その成功は戦略的な資源配分の優れた事例として引き合いに出されます。
一方で、経営者は自社の強みを活かした独自の価値提供を考案する必要があります。
これは、自社が持つユニークな能力や製品、サービスを通じて、市場に新しい価値を提供することを意味します。例を挙げれば、アマゾン社は、顧客の利便性を極限まで高めることで、小売業界における新たな価値を創造しました。彼らのビジネスモデルは、利用者にとっての簡便さ、迅速な配送、そして幅広い商品選択を可能にし、それが同社をeコマースの世界でのリーダーへと押し上げたのです。
しかし、静的な戦略では長期的な成功は望めません。市場や技術の進化は著しく、経営戦略はこれらの変化に適応し続ける必要があります。そのためには、戦略を定期的に見直し、環境の変化に合わせてアップデートすることが不可欠です。たとえば、IBM社はその歴史の中で、ハードウェアからソフトウェア、さらにはクラウドコンピューティングといったサービスへと事業を転換させることで、常に時代の最前線を行く企業となっています。これらの企業が示すように、変化に強い企業戦略こそが、経営者が目指すべき「新時代の経営の羅針盤」と言えるのです。
このように、企業戦略はただの計画以上のものです。それは企業の命運を握る、動的なプロセスであり、新しい時代の経営者にとっては絶えず磨きをかけるべき経営の核心となるものです。そして、その戦略を練り上げる過程で、外部環境の変化への柔軟性、内部資源の効率的利用、そして新たな価値創造への執着が絶えず問われることになるでしょう。この挑戦的ながらも報酬の大きなプロセスを経営者がどのように取り組むかが、企業の未来を決定づけるのです。
【出典】
アップル社の戦略については、Lashinsky, Adam. “Inside Apple: How America’s Most Admired–and Secretive–Company Really Works”. Grand Central Publishing, 2012.
テスラ社の事例に関しては、Vance, Ashlee. “Elon Musk: Tesla, SpaceX, and the Quest for a Fantastic Future”. Ecco, 2015.
アマゾンの経営戦略に関しては、Stone, Brad. “The Everything Store: Jeff Bezos and the Age of Amazon”. Little, Brown and Company, 2013.
IBM社の変遷に関しては、Carroll, Paul. “Big Blues: The Unmaking of IBM”. Crown, 1993.
市場を勝ち抜く「競争戦略」
企業戦略の策定に続き、経営者はその広範な枠組み内で「競争戦略(事業別戦略)」への取り組みを進めることになります。競争戦略は、企業が各事業を通じて市場内でどのように差別化を図り、競争上の優位性を構築するかを決定するプロセスです。
この戦略の核心は、アフターコロナという新たな商環境下で、企業がどのように適応し、自社のイノベーションをいかに推進するかという点にあります。
市場が更に多様化し、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進む現代においては、テクノロジーを駆使し、新しい顧客体験を生み出すことが競争力の源泉となります。たとえば、スターバックスはデジタル注文や支払いシステムの導入によって顧客体験を改善し、店舗への来客減少に対処しています。また、ナイキは独自のスマートフォンアプリを利用して顧客のフィードバックを製品開発に活かし、市場での差別化を図っています。
これらの企業の取り組みは、市場分析や顧客データを深く掘り下げ、顧客の細分化されたニーズに応じた製品やサービスを開発することの重要性を示しています。データドリブンなアプローチは、顧客に対するより個別化されたマーケティング戦略の策定や、製品開発の精度を高める上で不可欠です。
例えば、Netflixは視聴データを基に個々の顧客に合わせた推薦システムを開発し、顧客エンゲージメントの向上に成功しています。
このように競争戦略は、顧客のニーズに深く根ざし、それを満たすための独自の価値提供に重点を置いています。変化に迅速に対応し、常に顧客との関係を深めることで、企業は持続可能な競争優位を築き上げることが可能になります。こうした戦略的な取り組みを通じて、企業はアフターコロナの市場で勝ち残るための強固な位置を確立するのです。
このプロセスは、革新的な技術の導入だけでなく、企業文化の変革をも含んでいます。従業員が新しいアイデアを生み出し、実験することを奨励する文化は、企業が継続的に市場で差別化を図る上で不可欠です。Googleの「20%の時間」政策や3Mのイノベーションプログラムなどは、従業員が創造性を発揮し、新しいアイデアを追求する環境を提供することで知られています。
最終的に、競争戦略は持続的な自社内イノベーションを通じて市場での優位性を確立し、企業の成長を加速させるための戦略です。顧客ニーズの精密な分析、テクノロジーの活用、そして組織文化の改革を軸に展開することで、アフターコロナの市場においても企業は繁栄を続けることができるのです。
効率と創造性を引き出す「機能戦略」
企業戦略と競争戦略を策定した後、経営者は組織内の各部門に目を向け、「機能戦略(部門別戦略)」の策定へと進む必要があります。この戦略は、企業全体の目的と目標を具体的な行動計画へと落とし込むもので、営業、マーケティング、人事、研究開発などの各部門が独自の戦略を展開し、企業戦略と競争戦略の実行を支えます。
例えば、Apple Inc.では、各製品の設計や開発、マーケティングに至るまで、革新性と顧客体験の向上を重視した戦略が部門ごとに策定されています。営業部門では、直営店やオンラインストアを通じて顧客との直接的な接点を大切にし、マーケティング部門は製品の機能性だけでなく、デザインや使いやすさを前面に打ち出す戦略を取ります。また、人事部門では、社員が創造性を発揮しやすい環境づくりに重点を置き、優れた人材を引き付け、保持するための戦略を展開しています。
このように機能戦略は、各部門が独立性を持ちつつも、企業全体の方針に沿った目標を追求することが求められます。そして、各部門間で情報共有や資源の共有が行われることで、組織全体としてのシナジーを生み出すことが可能となります。
営業部門では、顧客との関係構築における戦略を練り、CRMシステムの導入により顧客情報を管理し、高い顧客満足を目指します。マーケティング部門では、市場動向を分析し、ターゲット顧客に適したプロモーション戦略を策定します。人事部門は、適切な人材を獲得し、教育し、高いモチヴェーションを維持するための戦略を立てます。そして、研究開発部門は、革新的な製品やサービスの開発に集中し、企業の持続的な成長を促進する戦略を策定します。
各部門で策定される機能戦略は、企業の長期的な目標達成に直結しており、創造性や社内イノヴェーションの発揮を促すための土壌を整えることが不可欠です。組織内のコミュニケーションを活性化させ、部門間の壁を取り払いながら、統一されたビジョンに基づいた行動を促進する文化を育むことで、各部門の機能戦略は企業全体の目標達成へと大きく貢献することとなると考えます。
まとめ
アフターコロナという新たな経済環境において、自社の行く末に不安を感じる経営者は企業の羅針盤たる「企業戦略」修正に一日も早く着手し、新しい価値創造への道筋を構想すべきです。これは単に過去の成功を踏襲するのではなく、変化する世界の中で自社がどう成長していくかを見極める作業です。
次に、市場での勝機を見出す「競争戦略」、部門の機能を最大化する「機能戦略」と段階を追って計画を進め、組織全体で一丸となってそれを実行に移すことが成功(リブランド)への道筋であると言えます。